島
私の祖父母は20人も乗れば沈んでしまいそうな古い船で30分も揺
られた所にある、小さな島に住んでいた。
その家の前は1m程の高さしかない防波堤があるだけの海沿いにあり、アスファルトのない道にはいつも砂煙が立ちこもっていた。
数歩あるくと、音をたてず舟虫が一斉に道をあけ、錆びた船のイカリがモニュメントの様に砂浜に横たわっているセピア色の風景だった。
夜が来ると辺りは闇に鎖され、静寂の中に時間の針より正確に打ち寄せ
る子守唄にもならない波の音を聞きながら、慣れない布団の中に居た幼い自分を思い出す。
どんなに小さな音にも敏感になり、月明かりで影が形を変えるだけでも、つま先まで脅えたあの
日。
外界との交渉を一切断ったような疎外感を味わった「島」の時間は今も忘れられない。
外に出て漆黒の海を眺めていると、瞬きをした瞬間に消えてしまった記憶の中の、幻の映像が蘇る。
それが今回の”月夜の残像”や”落武者の亡霊”なのかもしれない。
寝る前、耳元で民話のように話してくれた祖母のせいだと信じている。
少し前、ぼんやりテレビを眺めていると、その「島」が取り上げられていた。
夜光虫を透通ったパイプに入れ、まさに自然の電飾を作っていた。
祖父母も父も他界し、縁の切れてしまったようなその「島」を、又尋ねてみたくなった…。

